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Vol.09
フェイクグリーンが職場環境改善にもたらす効果

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高度なテクノロジーが発達した現代社会において、オフィスや教育・研究機関などにおける知的生産性を高めることが、経済競争力の源泉になると言われている(1)

 

しかし、昨今の仕事場では、これまでと同様の肉体的・精神的なストレスに加え、ICT(Information and Communication Technology)化によってパソコンやタブレット、スマートフォンを使ったVDT(Visual Display Terminal)作業が増加し、オフィスワーカーがテクノストレスという新しいストレスにさらされる現象が発生している(2)

 

これらの職場における様々なストレスは、健康への悪影響と知的生産性の低下を招くため、多くの企業がオフィス空間の快適性の向上に取り組んでいる。

 

現代の仕事環境におけるストレスを軽減するためには、適度に仕事から離れ、自然環境に触れることが重要である。自然環境に触れることで、心理的および生理的なストレス症状を緩和させることが知られており、自然環境は都市環境よりもストレスからの回復に効果的であることが明らかになっている。

 

しかし、仕事や生活・住環境によっては、すぐに自然環境に触れることは困難である。

 

そこで、自然環境に触れる代替方法の一つとして挙げられるのが、「室内緑化」である。室内緑化は、文字通り室内に植物を導入することにより、装飾、空気浄化、リラックス効果、脳や視神経の疲労の回復を提供することであり、ストレスの緩和と生産性の向上を促すものである。

 

この室内緑化には、観葉植物などの生きた植物を導入することが効果的であるが、維持管理やコストの問題などがある。そこで「人工植物(フェイクグリーン)」や緑色のインテリアの導入も検討されている。

 

 

 

 

日本の研究者らは、将来のオフィスワーカーの要望を理解するため、大学生を対象にしたインタビュー調査を行い、室内緑化の効果に関する実験を行った(2)。オフィス空間に観葉植物(生きている植物)、フェイクグリーン、緑色のインテリアを配置したところ、緑色のインテリアについては、ない方が好ましいという調査結果となった。

 

また、観葉植物とフェイクグリーンについては、どちらも職場環境の改善に効果があったが、相対的には前者の方が、効果が高かった。しかし、前述の通り、観葉植物は維持管理の手間やコスト負担が大きい。このため、フェイクグリーンをうまく使うことで、手間やコストを抑えたオフィスの環境改善が可能となることがわかっている。

 

また、同研究において、オフィス空間における植物の配置は、緑の量、植物の配置、植物の形状など、「バランスが良い」ことが重要であるという結果も得られた(2)。オフィスワーカーの好みや考え方もあるため、一概には理想的な植物の配置を決めることはできないが、ストレス症状を抑えるには、緑視率(緑が視界に入る割合)などが重要であることもわかっている。

 

このことから、オフィスの緑化を進める場合には、自社で独自に配置をするだけではなく、専門家や外部業者に依頼してオフィスに植物を導入することも有効であると考えられる。

 

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オリエンタル技研工業(株) 東京本社

 

職場環境の緑化については、諸外国でも様々な研究が行われている。例えばオランダの研究グループは、トラブルが多いとされる病院の待合室において、植物や植物の代替品を展示した。その結果、植物や植物の代替品が全くない環境に比べて、患者のストレスのレベルが下がることが明らかになった。この研究結果では、生きている植物だけでなく、植物の代替品でも効果があったため(3)、観葉植物やフェイクグリーンによって、病院の環境を魅力的に改善することが期待される。

 

フェイクグリーンは、実際の自然を完全には代替することはできないがオフィスにおける維持管理の手間とコスト負担を考えると、有効な手段であると考えられる。フェイクグリーンをはじめとするオフィス緑化は、オフィスや病院などの様々な仕事環境で受け入れられており、気分を改善し、生理的なストレスを軽減させることがわかっている(4)

 

観葉植物はストレス軽減効果が高いが、一方で手間やコストの問題、さらに、虫などが発生する恐れもあることから、仕事場によっては利用できないこともある。一方、フェイクグリーンは、手間やコストを相対的に抑えられ、かつ、衛生面でも優れているため、オフィスの緑化を試行してみるには最適であると考えられる。

 

 

以上の通り、オフィスにおけるフェイクグリーンの導入は、会社をはじめとする様々な職場環境を改善する手段として有効である。また、昨今では、夜間でも光を浴び続けることによってサーカディアンリズム(昼と夜がある24時間の周期)が崩れるといった問題も生じている(5)。このため、オフィスにフェイクグリーンなどを導入するとともに、光環境の調節を組み合わせることで、より快適で知的生産性の高い職場の構築が可能であると考えられるのではないだろうか。

 

 

[参考文献]

1)[論文]源城かほり, 松本博, 緒方伸昭, 中野卓立 (2018) オフィス空間への植物設置によるメンタルヘルスケア効果に関する実証研究 83:1-10

2)[論文]橋本幸博, 松井 奈保子, 鳥海 吉弘 (2017) オフィス空間における室内緑化のストレス緩和に関する研究 評価グリッド法による室内緑化オフィスの評価構造の分析 1:69-75

3)[論文]Camiel J. Beukeboom, Dion Langeveld, and Karin Tanja-Dijkstra. (2012) Stress-Reducing Effects of Real and Artificial Nature in a Hospital Waiting Room. The Journal of Alternative and Complementary Medicine. 2012:329-333.http://doi.org/10.1089/acm.2011.0488

4)[論文]Berto R. (2014) The Role of Nature in Coping with Psycho-Physiological Stress: A Literature Review on Restorativeness. Behavioral Sciences. 4(4):394-409. https://doi.org/10.3390/bs4040394

5)[論文]Walker WH, Walton JC, DeVries AC et al. (2020) Circadian rhythm disruption and mental health. Transl Psychiatry 10:28. https://doi.org/10.1038/s41398-020-0694-0

 

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