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Vol.03
空気質(IAQ)の低下による健康被害:シックハウス症候群について

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近年のウェルビーイングへの関心の高まりや新型コロナウイルスの影響により、健康的に働ける安心・快適な職場環境を求める声は大きくなっています。騒音や照度など、職場環境を左右する要因はいくつもありますが、昨今特に大きな注目を集めているのがVOC(揮発性有機化合物)をはじめとした室内空気質(IAQ:Indoor Air Quality)です。本コラムでは、そんなIAQの低下と大きく関係するシックハウス症候群について解説します。

 

 

職場におけるシックハウス症候群について

 

昨今、特にリフォームや新築の建物で、風邪のような症状に悩まされた場合、よく指摘されるのがシックハウス症候群です。

 

家具や建材、カーペットなどから発生する多種類の微量な化学物質を体内に取り込むことが主な要因とされており、同じ部屋にいても酷い症状が出る人もいれば、全く出ない人もいるなど、個人差が大きいのが一つの特徴です。

明確な症状が今出ていないからといって安心できるものではなく、低濃度の有害な化学物質への長期曝露による健康への悪影響は十分に考慮する必要があります。

 

シックハウス症候群と聞くと、その響きから住宅に関する問題と捉えられやすいですが、職場で働く人々にとっても決して例外ではありません。

 

実際、国内のある病院の報告によると、シックハウス症候群の疑いで訪れた外来受診者の起因・発生場所別割合を比較した場合、職場が要因とされた割合は、2000年前半からの約15年間で22%から21%とほとんど減少が見られておらず、職場におけるシックハウス症候群は思っている以上に身近な問題であることがわかります。

 

 

シックハウス症候群の症状

 

 

シックハウス症候群の主な症状は、目がチカチカする、鼻水、のどの乾燥、吐き気、頭痛、湿疹などです。

 

これらの症状はカゼやアレルギーなどでも見られるため、その症状だけから「シックハウス症候群が原因」とすぐに診断を下すのは困難と言われていますが、建物内で同じ空気を吸う人の中で複数の人が同じような症状を呈する場合や問題となる建物を離れると症状が軽快するなどといった場合にはシックハウス症候群との関係が強く疑われます。

 

 

シックハウス症候群の原因

 

シックハウス症候群の原因としてよく指摘されるのが、化学物質による室内空気汚染です。

 

近年、省エネを背景として建物の高気密化・高断熱化が進んだことにより、建材などから発生するホルムアルデヒドやVOC(揮発性有機化合物)をはじめとした化学物質はより室内に溜まりやすくなっています。

 

実際、シックハウス症候群の発症にはダニやカビ、細菌などの生物的要因や音響・照明などの物理的要因、ストレスなどによる心理的要因なども関係すると言われていますが、ホルムアルデヒドやVOCなどの化学物質による室内空気汚染は代表的な症状との関連も強く、特に注意しなければなりません。

 

 

室内VOC濃度に関する指針

 

シックハウス症候群の原因である室内空気中に含まれる化学物質には、不必要に取り込まないための目安として、これまでに次の13の化学物質に対して室内濃度指針値が厚生労働省から示されています。

 

 

シックハウス症候群の主な原因とされる化学物質の室内濃度指針値と主な使用用途(東京都福祉保健局の資料を基に作成)

 

厚生労働省が濃度の指針値として定めたVOCは上記の13物質だけですが、それ以外のVOCも健康に影響を及ぼす可能性があります。しかしながら、VOCは非常に数多くあり、これらすべてについて指針値を定めることは現実的に不可能です。そこで、13物質以外の物質も含めたVOCの個々の濃度の合計として総揮発性有機化合物(Total Volatile Organic Compounds : TVOC)の暫定目標値※が400 μg/m3と定められています。

※暫定目標値は、健康影響や毒性学的知見から決定したものではなく、あくまでも室内空気の汚染状態の目安として利用されているものであり、TVOCと個別のVOC指針値とは独立に扱わなければならないとされています。

 

実際、VOC濃度を低減させることでシックハウス症候群の発生リスクはかなり低減できると言われており、これらの指針値は対策を講じるうえでも一つの目安として重要な情報となります。

 

 

シックハウス症候群の対処法

 

 

シックハウス症候群の対処法としてまず実施したいのが定期的な換気です。

 

換気による室内空気の入れ替えはVOC濃度を下げてシックハウス症候群の発生リスクを低下させるだけではなく、数多くの研究から認知機能や知的生産性に対してポジティブな効果があることが報告されており、できるだけ窓を開けて換気する習慣をつけることは費用対効果の高い有効な対処法です。

 

換気を行う際は、窓を1ヵ所だけ開けるのではなく、部屋の対角にある窓も同時に開け、空気の通り道を作ることで、効率的に換気できます。

 

オフィスで窓がない、窓があっても開閉できないという場合には、サーキュレーターや空気清浄機の使用がおすすめです。この際は、部屋の扉を開け、部屋の外に空気が流れるように意識して換気を行うことで効果が高まります。

 

 

空気質の見える化でより効果的な対策を実践

 

シックハウス症候群の原因となる化学物質の特定、使用制限、換気など、健康被害が出ないための対策をより効果的に行うために重要なのが空気質の見える化です。空気質測定器を用いてリアルタイムでモニタリングを実施することで、シックハウス症候群の原因であるVOC濃度をはじめとする空気質の状態を把握することができ、適切な対策を、適切なタイミングで行うことに大きく役立ちます。

 

より安心で健康的な環境を実現する第一歩として、空気質のモニタリングから始めてみてはいかがでしょうか。

 


 

空気のDXでより健康的な職場環境を実現

 

 

「オリエンタル技研工業」が提供する「センシングユニット カナリア」は、健康や生産性に影響を与える「温度」、「湿度」、「CO2」、「PM2.5」、「総揮発性有機化合物(tVOC)」の5つの代表的な室内空気質要素を高精度にモニタリングします。また、測定値が設定した閾値を超えると表示と音声で警告し、効率的に空調管理・換気などのリスク抑制のためのアクションを促すことで、安全・快適な室内環境の維持に貢献します。

 

空気環境が気になる方は、ぜひご利用を検討してみてはいかがでしょうか。

 

 


 

[参考文献]

[1]  換気の総合情報サイト|換気の時間「シックハウス対策の換気

[2] 【論文】「労働環境におけるシックハウス症候群の過去・現在・未来

[3] 東京都福祉保健局「室内環境保健対策

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