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Vol.09
チョコレートは『脳の栄養』を増加させ、精神の機能を研ぎ澄ます

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カカオの健康効果は有史以前の昔から知られていた。カカオの木の種子がいわゆるカカオであるが、その原産地に近い中米のアステカなどの地域においてカカオは『神々の食物』として珍重され、宗教行事などにも用いられていたという。そしてチョコレートやココアはカカオから作られるわけであるが、今日に至って、その健康効果は科学的にも数多く実証されている。

チョコレートの効能として比較的早くから知られていたものは大きく二つある。抗酸化作用と、食物繊維である。チョコレートに含まれるポリフェノールが持つ抗酸化作用は動脈硬化を予防し、胃潰瘍の回復を促進し、また認知症に対する予防効果を持つ。食物繊維は消化器官の働きを改善し、大腸がんのリスクを低減させることもできる。

と、このあたりは古くから立証されていた知見であるわけだが、今回紹介する日本人を対象とした研究では、チョコレートが脳に与える有益な効果がどのような機序を持っているかについて興味深い知見が示されている。では、以下にそれをご紹介していこう。

 

明治などが行った実験の結果と概要

 

この研究は愛知県蒲郡市・愛知学院大学・株式会社明治の産官学三者によって共同で行われ、2014年6月から7月にかけ、蒲郡市民病院で実施された。

その内容は、男性123人、女性224人、合計347名の中高年の男女に4週間、カカオポリフェノールを多く含んだカカオ分72%のチョコレート25グラム(約150kcal)を毎日摂取してもらい、血液や血圧の変化を測定する、というものである。

結果としては、チョコレートの摂取が「精神的・肉体的な活動性を高める」ということが明らかになり、さらに追加で行った分析によって、チョコレートの摂取によって脳由来神経栄養因子(BDNF)が増加していることが判明したという。

 

図1:カカオ72%チョコレートの摂取前後におけるBDNF濃度の変化を示したグラフ(※測定の値は抗体チップ法に基づく)(「チョコレート摂取による健康効果に関する実証研究」の報告レポートより引用)

 

 

脳由来神経栄養因子(BDNF)とは何か

 

ではここで、「脳の栄養」とも言われる脳由来神経栄養因子(BDNF)がそもそも何なのかということを解説しよう。

そもそも、古い知見では脳というのは未成年期に完成する期間であり、成人期以降は機能を低下させ、その細胞の数も減少の一途を辿るものと考えられていた。だが、このような考え方はその後の脳神経科学の知見によって否定されるに至っている。

まず単語についてだが、BDNFBrain-Derived Neurotrophic Factorの略である。化学的にいえば119個のアミノ酸から構成されるポリペプチド、つまりはタンパク質であり、1982年に初めてブタの脳から精製された。人体においては中枢神経、特に記憶を司る部位として知られる脳の海馬に多く存在しているが、広く血液全体の中にも含まれている。なお、65歳以上になると加齢に伴って次第に減少していく。

 

図2:血清中に含まれるBDNFの加齢に伴う現象を示したグラフ(※測定の値は酵素結合抗体免疫測定法に基づく)(「チョコレート摂取による健康効果に関する実証研究」の報告レポートより引用)

 

ちなみに、分子量の性質上本来は血液脳関門を通過できないのだが、血液中に存在するBDNFは何らかの理由でその制約を受けず、血液脳関門を越えられるらしいことが日本での研究によって明らかにされている。

さて、そのBDNFが脳内でどういった働きをしているかについてだが、ニューロンを作り出したり、神経伝達物質の合成を促進したり、というような働きがあり、つまりは脳の活動にとって重要な栄養分になっているらしい。具体的には、マウスを使った実験で、BDNFが脳内で半分程度しか働かないマウスを意図的に作って調べると、学習能力の低下がみられる。さらに、BDNFのシグナル伝達系の阻害されたマウスにおいては、記憶や学習の障害も見られるという。逆に言えば、BDNFは学習や記憶の働きにおいて重要な働きを担っている、ということである。さらに言えば、うつ病、アルツハイマー型認知症などとも密接な関係があるらしいことも明らかになりつつある。具体的には、両疾患の患者において、脳内でBDNFが減少していることが発見されている。

総合的に言うと、神経細胞のかたまりである脳において、その活動を支える様々な物質が存在する中で、中でも重要な働きをしているものの一つがBDNFだということである。

 

チョコレートは認知能力や学習能力を向上させる

 

さて、前述の産学官共同研究は、従来は増加させる方法がなかなか分かっていなかったBDNFについて、チョコレートの摂取が直接的にその増加につながることを初めて明らかにしたものである。このような効果をもたらすのは、カカオに含まれているポリフェノールである可能性が高いと考えられる。ちなみに、ここではチョコレートと同じカカオ由来の食物であるココアでの数値をご紹介するが、ココア(乾燥粉末)には6.2%のポリフェノール類が含まれている。

なお、カカオ製品には、脳血流量を増加させる効果もあることが既に分かっている。脳血流量の増加は、認知機能テストのスコア上昇につながるという科学的な報告もある。結果として、チョコレートを多く摂取している人の方が、そうでない人と単純に比較すれば認知機能テストの結果がよいと予測されるのであり、実際にそのような研究報告も行われている。

選択的に増加させることが難しいと考えられてきたBDNFについて、チョコレートのような身近で摂取の容易な食品が向上効果をもたらすという知見は、一例としては認知症予防のための習慣作りなどの観点から見ても、非常に好ましいことであるといえよう。つまり、チョコレートは脳の栄養を増加させて、精神の機能を研ぎ澄ませてくれるというわけである。

 

運動も併せて行うとさらに効果がアップ

 

最後に補足として。こちらはより古くから知られている知見であるが、BDNFの増加について、運動をするとよいということが知られている。適度な運動は、BDNFを効果的に増加させ、結果として記憶や学習などのパフォーマンスを高めることが明らかになっているのである。

また、こちらはラットで実験的に明らかになったことであるが、抗酸化物質を投与したラットに強い運動を行わせたところ、本来は運動によって生じる酸化ストレスが緩和され(図3中の4HNEは代表的な酸化ストレス産物)、また海馬におけるBDNFの発現を促進する環境が構築される可能性がみられた、という。

 

 

図3:ラットの運動とBDNFの関係性を示したグラフ(※Contは対照群、Exは実験群を示す)(「チョコレート摂取による健康効果に関する実証研究」の報告レポートより引用)

 

 

健康について考えたとき、がむしゃらに運動するというのは必ずしも望ましいことではない。プロフェッショナルのアスリートが意外に短命であるケースが多いことは経験的に広く知られているし、美容目的であってもあまり過激なエアロビクス運動などを行うと、かえって肌の老化などが起こることが知られている。一つには、過度の運動は活性酸素の害を招くためである。
しかし、適切な範囲で運動を行うことはもちろん望ましい。カロリーを消費しつつ、運動そのものが脳にもよい働きをもたらすことになるし、またチョコレートの働きによるBDNF増加との相乗効果を見込むこともできる。
適量のチョコレートと適量の運動は、心身に優れた効能をもたらし、そして精神の働きをリフレッシュさせるのである。

 

【参考URL】

チョコレート摂取による健康効果に関する実証研究

老化ゲノムの解明

よくわかるBDNF -基礎から臨床まで-「第1回 BDNF概論」

”BDNF”を増やすのが認知症予防のカギ!記憶力は運動と食べ物でよくなる

ココア・チョコレート健康法―何に効く・どう効く・どう食べる 近藤 和雄 (著), 板倉 弘重 (著) ごま書房 1996年

 

 


 

 

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