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Vol.08
コーヒー中のカフェイン作用で、ひらめきの神経物質が活発化する

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誰しも一度は「ひらめき」を感じたことがあるだろう。

 

例えば、気持ち良い晴れの日の散策中、ジョギングなどの軽運動時、朝の目覚めるタイミングなど、ひらめきはいつやってくるか分からない。そして不思議と、コーヒーを飲んだ時にも、しばしばひらめきを感じることがある。

 

そんな日常生活のあらゆる場面で起こる「ひらめき」は、瞬間的な気づき、ストレスの解放、興奮に近い情動を伴い、私たちにポジティブな体験をもたらすことが知られている。(1

 

この要因には、脳内の神経興奮物質である「ドーパミン」等の活動量が密接に関連しており、今日まで様々な観点から研究が行われてきた。

 

本コラムでは、コーヒーを飲んだ時に起こるひらめきに焦点を当て、コーヒー中に含まれる成分の作用を紐解き、現象を科学的観点から説明していく。

 

コーヒーに含まれるカフェインの効果

 

全日本コーヒー協会によれば、コーヒーに含まれる最も特徴的な成分は「カフェイン」であるとされている。効能として、集中力・運動能力の向上があり、利尿・興奮作用があることも明らかとなっている。(2

 

カフェインの含有量はコーヒー100mlに対して約60mgであり、煎茶や紅茶、コーラといった飲料品よりも高い数値を示している。元来カフェインは化合物の仲間であり、作用として覚醒や解熱鎮痛が期待されることから、倦怠感、頭痛などに対する医薬品として活用されてきた。(2

 

ところでカフェインは、私たちの体内に吸収される過程で、どのような科学的作用をもたらすのだろうか。

 

まず大前提として、人の脳神経は、起きているとき「興奮している状態」と判断される。興奮状態にある脳内では、ドーパミン等の神経興奮物質が常時放出されており、その抑制物質として、「アデノシン」も同時に分泌されることが知られている。このアデノシンがある程度分泌された時、人は眠気等を感じるとされるが、アデノシンの働きを抑える物質こそ、コーヒーに含まれるカフェインである。(3

 

コーヒーを飲んで30分ほど経過すると、カフェインは血流にのって脳内に達する。カフェインの作用によりアデノシンの働きが弱まると、神経興奮物質であるドーパミン等が自由に活動できる状態となり、本来の能力がいかんなく発揮されていく。(3

 

つまり、カフェインがアデノシンを抑制することで、ドーパミン等が活発化するのだ。大切なポイントとして、カフェインが神経興奮物質を直接「活性化させる」のではなく、あくまでも、関係する抑制物質の働きを抑えることで、結果的に「活発化する」だけである。

 

当然、カフェインを大量に摂取し続けることは無意味であり、健康に悪影響を及ぼすことから、度を越えた摂取には十分注意されたい。

 

 

神経興奮物質とひらめきの関係

 

 

 

次に、神経興奮物質の活発化が、ひらめきにどう結び付くのか説明していく。

 

東京大学の牧野氏(2018)によれば、ひらめきは、心理学における洞察学習だと定義しており、その特徴として、学習の成立に伴う「快と驚きの情動反応」が引き起こされると記している。これは「アハ体験」という呼び名で、広く一般に知られていることだろう。同文献では、洞察学習による脳の変化を超高磁場fMRIで観察し、アハ体験とドーパミン神経系の関連を明らかにした知見が紹介されている。(4

 

実験では、被験者に「3つの単語」と「回答に必要な文字数」が伝えられ、「各単語に基づいた関連性のある新しい単語を考えよ」という質問を、1セット30秒で行った。時間内に回答した(=ひらめいた)場合は手元のボタンで報告し、その正解・不正解に関わらず、感じたひらめきの度合を1~5の数値で自己評価した。参加者29名に対し、48問中、平均58%が時間内に回答し、正答率は71%であった。ひらめきの度合については、平均2.8という結果であった。(4

 

この実験では、被験者が質問に対して回答を行う際の脳活動を、fMRIを用いて観察した。結果として、ひらめきの度合いが低い場合でも、下前頭回、島皮質、背内側前頭前皮質などといった、多くの脳部位で活動の増加が確認された。驚いたことにひらめきが高まると、これらの部位だけでなく、腹側被蓋野や側坐核といったドーパミン神経系の活動も高まることが明らかとなった。この結果は、洞察学習が行われる際に、ドーパミン神経系が活性化されることを示している。(4

 

さらに、この実験ではもう一つ興味深いデータが明らかとなった。それは、「思考中の時間」においても、脳のひらめき物質は活性化しているという事実である。

 

「問題が提示されてから回答が出されるまでの時間」について脳内活動の比較を行ったところ、正解時には、先ほどと同じ腹側被蓋野や側坐核などの活動が高まることが確認された。これは、洞察学習(≒ひらめき)が行われる際に、まだ答えに至っていない段階でも、ドーパミン神経系がたくさん活動していることを示唆しているのである。(4

 

以上のことから、脳内のドーパミン神経系は、ひらめきと深く関わっていることが明らかとなった。この発見は、私たちが何気なく感じる「コーヒー摂取後のひらめく感じ」についても新たな解釈を与えるといえよう。つまり、コーヒーに含まれるカフェインがドーパミン神経系を刺激し、結果として創造的なひらめきを引き起こす可能性が考えられるのだ。

 

ひらめきで高まるコーヒーの価値

 

 

本コラム最大の着眼点は、コーヒー摂取とひらめきの相関であるため、これまでの知見をまとめつつ以下に記す。

 

コーヒー摂取により、血流に乗ったカフェインが脳内へと運ばれる。カフェインは神経興奮物質ドーパミン等を抑えるアデノシンの働きを弱め、その結果、ドーパミン等は自由に活動でき、本来の働きである興奮作用をもたらす。

 

一方、ドーパミン神経系が活発化した状態は、ひらめきにより、脳内の特定部位における活動が高まった状態と、極めて近しいと考えられる。従って、コーヒーを摂取することにより、ひらめきに伴う「快と驚きの情動反応」と、同程度の脳内環境になっていることが結論付けられる。

 

すなわち、「コーヒー中のカフェイン作用で、ひらめきの脳内物質が活発化した」と言い換えることが出来るであろう。コーヒーを「ひらめき」から見ることで、これまで以上に嗜好品としての価値が、個々で高まるかもしれない。

 

ひらめきはそれ自体がポジティブな感覚であり、日常生活を豊かにしていく。一杯のコーヒーから、そんな幸せを感じてみたい。

 

 

【参考URL

1)NIRSを用いたひらめき時の脳内変化の特徴抽出

2)全日本コーヒー協会「コーヒーの基礎知識」

3)ライフハッカー・ジャパン「カフェインは結局、ヒトにどんな作用を及ぼしている?専門書の著者に聞いてみた」1:カフェインに興奮作用はあるの?

4)牧野健一(2018)「ひらめきに付随する「アハ体験」とドパミンの神経相関」

 


 

 

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