COLUMN

Vol.02
【研究者が行き交うBio-Xプログラムの大脳】
スタンフォード大学 James H. Clark Center

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■Bio-Xプログラム

工学・生物学・自然科学や心理学・コミュニケーション分野において、全米最高峰の研究が行われているスタンフォード大学。

今回紹介するのは、そんなスタンフォード大学の中心部、キャンパスとメディカルセンターを結ぶ主要ルートに建っているJames H. Clark Centerだ。

 

同大学は、生命科学研究のさらなる飛躍を目指すための研究プログラム「Bio-X プログラム」を推進していることでも有名だ。

この「Bio-X プログラム」の掲げる理念は、異分野・多分野の垣根を越えた対話や連携を促すことで、人間の健康に役立つような学際的な解決策や生体システムに関する新しい知見を創造することである。

 

その理念を実現するべく、ここJames H. Clark Centerでは様々なイベントやプログラムが活発に行われている。

その一例としては下記のようなものがある。

①異分野同士の協業から生まれた最先端の研究を紹介するセミナーやシンポジウム

②多種多様な分野の学生・研究者が集まり、自らの研究を紹介するワークショップ

③分野横断的な研究活動に対して資金援助を行うプログラム“The Stanford Bio-X Interdisciplinary Initiatives Seed Grants Program (IIP) 

 

Photo by Anirudh Rao – Clark Center(2011)

 

そんなBio-Xプログラムの中核機関として、科学的・医学的課題の解決に向けて23の学部から最先端の知識・技術を持ち合わせた700人の研究者が集まる当ラボ、Clark Centerについて紐解いていく。

 

■建築としての工夫や評価

 

Photo by Stanford University James H. Clark Center by PWP Landscape Architecture – architizer (2003)

 

上空から見下ろした際に目を惹くのは、ラボの中庭を走る大きな遊歩道だ。

Clark Center内の建物は、この遊歩道によって3つのエリアに分割されている。

遊歩道では行き来する人たちが出会い、言葉を交わす光景がよく見られる。

研究と直接関係のないシチュエーションにおいても自然と研究者同士の会話が発生するこの構造は、分野をまたいだ研究が求められる「Bio-Xプログラム」の理念を体現するものだと言えるだろう。

 

また、中庭には展示会やコンサートなどのイベントに利用されるフォーラムが設けられている。

このフォーラムも遊歩道と同様に、人々の交流を生み出す仕組みとして機能しているのだ。

 

「Bio-Xプログラム」においては、レーザーなどの高感度な機器を使用した研究も行われる。

研究中に生じる誤差を最小限に食い止めるためには、「研究室内の振動をいかに抑えるか」が非常に重要だ。

そこでClark Centerは、剛性と柔軟性の両立を実現すべく、複合鋼板デッキとコンクリートからなる吊り下げ式の構造を採用した。

伸縮性と耐震性に優れたこの構造は、地上3階・地下1階に及ぶClark Centerを研究に適した環境にすると同時に、建設時のコストを抑えることにも貢献した。

 

また、機能性を確保すると同時に、外観へのこだわりも強調すべきポイントだ。

赤い瓦でできた屋根やライムストーンのファサードなどを見てわかるように、Clark Centerにはスタンフォード内の他の建物と共通する素材がふんだんに使われている。

外観に表れる美しさと伝統もまた、建築物としてのClark Centerの評価を高めている一要素だ。

 

■イノベーションを生む仕組み

Clark Centerには、「Bio-Xプログラム」の理念に基づき、異分野の研究者同士が相互に協力し合いながらイノベーションを生む場となることが求められている。

ここからは、Clark Centerがいかにして多種多様な分野の講師・研究者・学生たちにセレンディピティ(偶然の出会い)やカジュアルな交流を提供し、イノベーションを生んでいるのかを紐解いていこう。

 

Photo by  Peter Thoeny – Science, but not rocket science (2014)

 

上の写真を見てもわかるように、Clark Center内のラボは外壁がガラス張りになっている。

さらに、研究室同士はバルコニーによってつながっており、研究者たちはこのバルコニーを通ってラボ間を行き来することができる。

 

そのため、研究者たちは研究室内からいつでも中庭の景色を見ることができ、一方で研究室付近を通りすがった研究者は、ラボの内部を目にすることが可能だ。

ラボの内外でオープンな視線が行き交うことは、研究室間同士の関係が閉鎖的になることを防ぎ、研究者たちに新たな着想や自由な発想を提供している。

 

また、先述のとおりClark Centerのラボは、中庭の遊歩道によって3つのエリアに分割された地上3階・地下1階の構造になっている。

エリア間およびエリア内の各階は多数の橋と階段によって結ばれており、建物間を自由に行き来できるよう工夫されている。

 

Photo by Robert Canfield – Centro Clark, Stanford 

 

また建物間の行き来の自由度が高いだけでなく、研究室内のレイアウトが自由に組み替え可能である点も、イノベーションを生むための特徴のひとつだ。

ラボ内で使用されているベンチやデスクにはすべてキャスターが付いており、研究ニーズの変化に応じて臨機応変に移動させることができる。

 

このように研究者や備品が縦横無尽に行き来する様は、まるで多種多様な知識が交差する人間の大脳の中を見ているようだ。

Clark Centerは、まさにBio-Xプログラムにとっての大脳として、科学的・医学的課題の解決に向けた研究拠点の役割を果たしているのである。

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