日々進化するテクノロジーにより、さまざまな仕事が機械やコンピュータ、AIに置き換えられている。しかし、多くの仕事はまだまだ人間が行うものであり、それぞれの仕事に合わせた個人・チームの能力と技能が必要である。
人間が仕事をする場合、機械などと異なり、常に同じ生産性を発揮するわけではない。モチベーションが高くて仕事がどんどん進む日もあれば、どうしてもやる気が出ずにあまり仕事が進まない日もある。個人やチームでどのようにモチベーションを維持して生産性を高めていくかについては、会社をはじめとしたあらゆる組織の課題となっている。
モチベーションを上げて生産性を向上させるためには、従業員を褒めることが1つの手段であると考えられる。人は褒められることでやる気を出し、仕事がどんどん進むと思うかもしれない。しかし、実はこれまでの研究によって、褒め方によって個人やチームの生産性やパフォーマンスが上がる場合もあれば、逆に下がってしまう場合もあることがわかってきた。
米国コロンビア大学の研究者らは、10-11歳の学生に課題を解かせた後、「能力に焦点を当てた賞賛」(あなたは頭が良いなど)と「努力に焦点を当てた賞賛」(あなたは一生懸命頑張っているなど)を行なった(1)。その結果、努力に焦点を当てた賞賛を受けた子供たちは、賞賛がなかった子供たちに比べて、作業の楽しさをより多く報告し、高いパフォーマンスを発揮した。
一方、能力に焦点を当てた賞賛を受けた子供たちは、作業の楽しさをあまり報告せず、なんと低いパフォーマンスを発揮した。すなわち、この研究では努力に焦点を当てた賞賛ではパフォーマンスが向上したのに対し、能力に焦点を当てた賞賛は逆にパフォーマンスを低下させるという真逆の結果が得られた。
類似の研究は別のグループによっても行われており、例えば中国とフィンランドの学生を対象にした調査もある(2)。この研究では、人に焦点を当てた賞賛は学業のモチベーションに否定的な影響を与え、一方でプロセスに焦点を当てた賞賛は学業のモチベーションを高めることが明らかになった。
また、本研究では人種やコミュニティによって効果的な賞賛の仕方が少しずつ異なることもわかってきているが、子どもや学生に対する賞賛については、概してプロセスに焦点を当てた方が良いと考えられている。
上記の研究は、子どもや学生を対象として行われたものであるが、成人を対象とした研究では(3)、努力などのプロセスに焦点を当てた賞賛が、必ずしも有益な影響だけをもたらさない場合もあることが示唆されている。
特に成人では、個人に焦点を当てた努力に関する賞賛がネガティブな結果をもたらす可能性すらあるとされており、これは、年齢や立場によって褒めることの効果が明確に異なることを意味している。以上のとおり、生産性を高めるために仕事場で人を褒めるにあたっては、褒め方が一辺倒にならないよう注意する必要があるだろう。
それでは、どのようにすれば生産性を高めることができるだろうか?ハーバードビジネススクールの研究によれば(4)、会社の従業員は、仕事の経験にポジティブな感情や、仕事やチーム・リーダー・組織に対する好意的な「認識」が含まれる場合に、より良いパフォーマンスを発揮するとされている。
また、マネージャーの行動が従業員の内面の仕事の雰囲気に大きく影響することもわかっている。これらをまとめると、研究結果では、最も重要な褒め方は、従業員が“仕事において進展を感じる能力”、すなわち“認識”を発揮させることであると結論づけられている。これを言い換えると、人々は仕事の進展を実感することができると、心理的な仕事体験が蓄積し、生産性が上がるということが言える。
また、韓国のグループの研究によれば(5)、同僚の助け合いというポジティブな行動によって、従業員同士の知識の共有を促すことができ、業績が向上することが示されている。このように、仕事の進捗を認識させるとともに、従業員同士で褒め合い、助け合うというポジティブな行動をとることで、会社の業績に良い影響を与えることがわかってきている。
以上のとおり、会社などの組織において、褒めることには一定のポジティブな効果が認められることが分かった。最近ではこの点に着目して、まるで人間のように褒めてくれるAI導入型のスマートスピーカーなども登場している。一人一人が褒める文化づくりを行いながら、最先端のテクノロジーで補完していくことで、雰囲気が良く、生産性の高い組織が構築できると考えられる。
[参考文献]
私たちオリエンタル技研工業が開発した「KANARIA」は、温度・湿度・CO2・tVOC・PM2.5といった重要な室内空気質を測定するセンシングユニットです。
労働衛生コンサルタントが監修した「労働環境の改善促進・行動変容 」を促す豊富な機能に加えて、職場の空気感(雰囲気)の向上にも寄与する「褒め機能」も搭載されており、空気を「アゲる」相棒としてワークプレイスを見守ります。