旅行で自然あふれる郊外に出かければ、自然と深呼吸をしているかもしれない。
人が生きていく上で、空気は最も重要な要素の1つである。
自然の多い郊外では空気の質を気にしなくてよいことが多いが、人口密度の高い都市部では空気の質を保つことは、地域社会にとって最重要課題の1つである。
特に、人々が長時間過ごすことになる居住空間や仕事場の空気の質は、健康に重大な影響を与えるだけではなく、近年の研究から仕事の生産効率などにも影響を与えることがわかってきた。
空気の質は、室内空気質、または単に空気質と呼ばれ、英語では、Indoor Air Quality(IAQ)と言う。
IAQは、都市部における公衆衛生に重大な影響を与え、働く人々の健康に大きな影響を与える。2020年のコロナウイルスCOVID-19のパンデミック以降、多くの従業員が対面での接触を最小限に抑えるために、リモートで自宅から仕事をするようになった。
アメリカの研究グループは、COVID-19パンデミック前およびパンデミック中の職場や自宅のIAQと、IAQによる従業員の健康への影響を調べた。この調査では特に、「PM2.5」として知られる微粒子状物質と、シックハウス症候群の原因として知られる総揮発性有機化学物質「tVOC」を測定した。tVOCとは、例えばホルムアルデヒドやクロロホルム、ヘキサンなどの化学物質の総称であり、揮発して人が吸い込むため、めまいや吐き気、頭痛などを引き起こすことが知られている。
研究では、エアモニターを使ってPM2.5とtVOCを測定した結果、なんと在宅勤務中の自宅でのPM2.5レベルが、オフィスよりも有意に高かったというデータが得られた(1)。特に在宅勤務中の全世帯のPM2.5レベルは、健康指標として定められているアメリカの年間平均基準(12 μg/m3)を上回っており、対照的に90%のオフィスは基準を満たしていた。
居住空間は千差万別であり、この研究はアメリカで行われたものなので、日本にすぐに適用できるものではない。しかし、職場の空気の方が自宅よりもきれいであるという結果は、多くの人々、特に日本人にとっては想像し難いだろう。
IAQは、健康だけでなく、仕事の生産性においても重要である。研究グループは、室内のPM2.5と二酸化炭素(CO2)濃度が、そこで働く人々の認知機能にどのように影響するかを調べた(2)。中国、インド、メキシコ、タイ、アメリカ、イギリスの6か国にある商業ビルのオフィスワーカー302人を対象に、長期間にわたって観察調査が行われた。
この研究では、認知機能を調べるScoopテストや、認知速度や作業記憶能力を調べるADDテストが行われた。研究の結果、PM2.5や二酸化炭素の室内濃度が高い環境下で働くことで、オフィスワーカーの認知機能や作業の処理速度に悪影響を与えることが示された。この結果を受けて研究者らは、職場における空気汚染の負の影響を軽減するためには、換気システムを改善すること、空気清浄機を設置することなどが解決策であり、これらによって従業員がより健康的で、高い生産性を保つことができると結論づけている。
さらに現代は、多種多様な業務やサービスが生まれており、それに合わせてシェアオフィスなどのオープンな職場環境も生まれている。この場合、多くの人々が同じオフィスビルで働いているため、オフィス環境の品質を確保するための適切な指導や決まりも重要である。
ヨーロッパの研究グループは、上述の研究と同様、オフィス環境、特にIAQが、オフィスワーカーの健康と生産性に影響すると述べている(3)。さらに、様々な関連研究の結果を総合した結果、オフィス環境を改善するには、すべての重要な環境指標が定期的にモニタリングされること、室内の汚染源が少ないこと、適切な換気が実施されていることなどが重要であると結論づけている。
以上の通り、働き方やオフィスの形は時代とともに目まぐるしく変化しているが、人や会社にとってIAQが重要であるという点は、全く変わっていないことがわかる。
このため、IAQが従業員の健康と会社の生産性に直結するという研究結果は、おそらく今後も揺るがないと思われる。このことから、IAQを改善するための設備は、企業にとって必要不可欠な投資の1つであると言えるだろう。
さらに現代では、スマート家電やウェアラブル機器などの登場によって、室内環境や人の健康状態が容易に明らかになるため、IAQをごまかすことはできない時代であることも留意されたい。
[参考文献]
私たちオリエンタル技研工業が開発した「KANARIA」は、温度・湿度・CO2・tVOC・PM2.5といった重要な室内空気質を測定するセンシングユニットです。
労働衛生コンサルタントが監修した「労働環境の改善促進・行動変容 」を促す豊富な機能を搭載しており、空気を「アゲる」相棒としてワークプレイスを見守ります。