バーベキュー(BBQ)といえば、子供から大人まで楽しめるアウトドアアクティビティの定番である。BBQは単に楽しむだけでなく、炭を使った火の起こし方や料理の下ごしらえと調理方法、配膳のマナーなど、学習効果も高いため、世界中で人気がある。
近年では、BBQをプライベートのアクティビティとしてだけではなく、ビジネスとしてのアクティビティとして捉え、仕事の様々な場面で活用する動きが見られている。特に最近は、コロナ禍でリモートワークが増加し、職場のコミュニケーションが課題となっている。
日本企業は、職場でのコミュニケーション能力を重視してきた歴史があり、その理由としては職場のコミュニケーションは業務情報だけでなく、社交的な話や雑談も含まれることによって、多面的な効果が期待されるためである(1)。
時代の変化と多様化において、ビジネスにおける競争優位の源泉は「ヒト」であり、企業は組織マネジメントを重視しなければならないと言われている。上司とメンバー間のコミュニケーション不足が職場の活性化を妨げており、成功している企業は、企業理念の意識化と「知り合う」「学びあう」「賞賛しあう」ための仕組みを活用している(2)。
こうしたコミュニケーションは様々な場面で有効であり、例えば医療系の専門学校は、共同作業と褒めによる気分・感情の変化が、患者のリハビリ意欲に与える影響を調査した。その結果、共同作業と声掛け(褒めること)が患者のポジティブ感情を高め、リハビリに対する意欲向上に寄与することが明らかになった(3)。
このように、ポストコロナの現在において、ビジネスシーンにおけるコミュニケーションの円滑化は企業にとって重要な課題となっており、BBQがこれらの課題解決に一翼を担える可能性がある。
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共同作業をするだけならば、何もBBQではなく、単に集まって話をしたり、仕事をしたりすればよいと思うかもしれない。しかし、昔から「同じ釜の飯を食べた仲間」という言葉があるように、一緒に食事をすることは、単なる共同作業以上の効果があることが、経験的にわかっている。また、一緒に食事をすることは、社内のメンバーの仲が良くなるだけでなく、対外的な交渉にも良い効果をもたらすという研究成果がある。
シカゴ大学ブースビジネススクールの研究によれば、食事を共にすることで、交渉が円滑に進み、合意が迅速に達成される傾向があるという結果が示された。研究では、試験をするチームを2つに分け、一方は共通のボウル(食事の皿)、もう一方は個別のボウルから食事を摂取しながら仕事を行った。その結果、共通のボウルで食事を摂取したチームの方が、より粘り強く、経済効果が高まるという結果になった。この現象は、チーム参加者同士の相互の好意や感情とは無関係であり、食事を共にすることが重要であると結論づけている。同研究を行ったフィッシュバック教授は、「基本的に、一人で食事をすることは、誰かとつながる機会を逃していることになります。そして、食べ物を共有する食事は、社会的な絆を築く機会を最大限に活用することができる。」と述べている(4)。
さらにBBQは基本的には野外で行われるため、アウトドアで自然に触れることによる効果も期待できる。多くの人が歩行と創造性に特別な関係があると感じており、哲学者フリードリッヒ・ニーチェ(1889)は、「真に偉大な思考はすべて歩行の中で生まれる」と述べている。
このニーチェの観察を裏付けるように、様々な研究が、歩行によって創造的なアイデアの創出を促すことを示している。研究では、特に歩行を屋外で行った場合に、最も高いクオリティのアイデアが生み出されることが確認されている(5)。
また、自然環境と都市環境の影響を比較して、認知機能の回復効果を調べた研究では、都市環境は注意が必要な刺激(車に気を付けるなど)が多いため、認知機能の回復効果が低いとされた。一方、自然の中での活動では、注意力が向上し、認知機能がより回復することが示されている(6)。
このように、自然の中でBBQを行うことによって、疲れた脳機能を回復するだけでなく、ビジネスに関する創造性を発揮することも可能となると考えられている。
こうして企業のチーム作りやビジネスアイデアの創出、顧客との交渉にも有効と言えるBBQであるが、忘れてはいけないことが、BBQの美味しさそのものである。ラム肉を使った研究では、ラム肉のパティを異なる調理方法で調理し、香りのプロファイルについての調査を行った。その結果、バーベキュー法によって、パティの風味特性に有意な違いが見られ、肉の香りや風味に影響を与えることがわかった(7)。周知の通り、BBQで生まれる肉の香りや風味は世界的人気があり、スナック菓子をはじめ様々な食品に応用されている。また最近では、BBQの香りや風味を利用して、大豆ミートなどの代替肉をより動物性の肉に近づけるための研究も行われている。
以上の通り、BBQには、社内のチームづくりや創造性、対外的な交渉、そして、参加者の満足度などについて、多面的な効果があることが示されている。火の始末や排気設備のない室内でBBQを行わないことなどの注意点はあるが、BBQを活用した新しい会社・組織作りは、科学的にも非常に有効であると考えられる。
[参考文献]
1)[web]清水崇文(2022)「仕事の生産性やイノベーションに影響を与える“雑談” コロナ禍で変化する、職場コミュニケーションのあるべき姿とは」
2)[論文]石田秀朗(2013)職場活性化を促す社員間コミュニケーションに関する研究
3)[論文]大阪医療福祉専門学校(2016) 褒めと単独・共同作業が気分・感情に与える影響, 卒業研究発表