現代社会では、ストレスや不眠に悩まされる人が増加しており、薬物療法に加えて非薬物療法への関心が高まっている。中でもアロマセラピーは、精油を用いた自然療法として、心身のバランスを整える効果が注目されている。
近年では、アロマセラピーの有効性に関する科学的な検証も進み、睡眠や心理的健康への効果が明らかになるとともに、仕事におけるポジティブな効果も明らかになってきた。
本稿では、最新の研究成果をもとに、アロマセラピーが及ぼす幅広い影響について解説する。
睡眠の質を高めるアロマの力
アロマセラピーが睡眠に与える影響については、国内外で多くの研究が行われている。
韓国・ソウル大学の研究グループは、成人と高齢者を対象とした30件の研究を対象に分析を行い、アロマセラピーがすることを報告した(1)。全体の効果量としては心理学や医学研究の基準で「中程度から大きな効果」に相当し、臨床的にも意味のある改善であると考えられる。特に、アロママッサージやアロマセラピーを1回20分以上、4週間以内で行った場合、効果が大きかった。
また、睡眠の質だけでなく、ストレス、痛み、不安、抑うつ、疲労の軽減にも寄与することが明らかになった。特に、入院患者や高齢者を対象とした場合には効果量が大きく、準実験的研究においては対照群に通常ケアを行った場合と比較して顕著な効果が得られた。
さらに、中国・雲南中医薬大学の研究グループは高齢者に焦点を当て、アロマセラピーの睡眠改善効果を検討したメタ分析を行った(2)。その結果、特にラベンダー精油を単独で使用し、非吸入法(例:マッサージなど)を用いた場合に、より高い効果が見られた。4週間未満の短期介入(アロマセラピーの実施)においても良好な効果が得られたことから、高齢者の補完療法として有望であると結論付けている。
精油の成分とその作用
国内でもアロマの研究は行われている。
大阪電気通信大学の武田教授の研究報告では、精油に含まれる特定の成分が心理や生理に与える影響について検討された(3)。
たとえば、ラベンダーに含まれる成分である酢酸リナリルには副交感神経を優位にし、ベルガモットや柑橘系精油に含まれるリモネンには気分転換や血圧低下の効果があるとされている。芳香浴やアロマトリートメントを行うことで、不安の軽減や起床時の気分改善、睡眠効率の向上が示唆された。
特に、特性不安(普段から不安を感じやすい性格)が高い人では、状態不安(その瞬間の不安)の度合いがトリートメント前後でマイナス約16%と有意に低下し(p < 0.001)アロマトリートメントによる不安の低減効果が大きいことが示された。
アロマセラピーで業務効率を上げる
アロマセラピーは、不調を改善するだけでなく、健康な人たちにとってもプラスの効果がある。
筑波大学の研究グループは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行下における在宅勤務者を対象に、精油の芳香とその吸入が業務パフォーマンスに及ぼす影響を検討した(4)。25〜49歳の在宅勤務者30名(女性20名、男性10名)は、日中はローズマリーまたはスイートオレンジ、夜間はラベンダーまたはベルガモットを、各自の好みに応じて吸入した。
週3回以上、4週間にわたる実験の結果、精油使用群はコントロール群と比較して、業務遂行能力のスコアが有意に改善した。また、活力度、安定度、快適度がいずれも有意に上昇しており、精油の芳香吸入は、在宅勤務者の気分改善および仕事の生産性向上に寄与し得る、簡便かつ有効な介入手段である可能性が示唆された。
さらに集中力を要する医療従事者に対するアロマセラピーの効果も検証されている。トルコ・トラブゾンの大学の研究グループは、救急外来において、ラベンダー精油を用いたアロマセラピーの有効性を調べた実験(5)では、「非常に多忙で対応が困難だ」と医療従事者が感じたタイミングでアロマセラピーを実施し、その前後で不安の変化を比較した。
不安の状態レベルと仕事の過密状態の主観的評価には有意な正の相関が認められた(相関係数0.415)が、アロマセラピー後には不安レベルが有意に低下しており、多忙や負荷による不安の軽減にアロマセラピーが有効である可能性が示された。このように、アロマセラピーは、業務改善という効果もあることが明らかになりつつある。
そのほかにも、中国とスペインの大学の研究グループは、大学の管理職員(42名)を対象に、柑橘系のすっきりとした香りが特徴的なプチグレイン精油のアロマディフューザーを使用したところ、アロマ使用群は、課題の入力作業を約2、3分早く終え、自律神経のバランス(HRV指標)にも良好な変化を示したと報告している(6)。
臨床現場での応用可能性
日常のリラックス効果や仕事の業務効率改善効果に加え、アロマセラピーの臨床応用例として、やけどの患者を対象とした研究も存在する。
コロンビアの研究グループは、アロマセラピーが睡眠障害や不安、痛み、吐き気、更年期症状などの軽減に有効であることを報告し、特にラベンダーが幅広い効果を持ち、安全性も高い精油として注目されていると述べている(7)。また、ユーカリやサンダルウッド、カモミールなど、多種多様な精油がそれぞれ特性を持ち、症状に応じた使い分けが可能である。
さらに国内では、頭痛に対したアロマセラピーの研究も行われている。
倉敷平成病院の上野氏らは、一次性頭痛に悩む女性患者に対し、ラベンダーとゼラニウムの精油を使用したアロマセラピーを行った(8)。
その結果、頭痛の発作回数や薬の使用が減少し、睡眠の質も改善した。患者の約8割が有効性を実感しており、ゼラニウム群ではやや高い効果がみられたことから、精油の選定によってより個別性の高い介入が可能であることが示唆された。
おわりに
以上の通り、アロマセラピーは、精油の香りや触覚刺激を通じて自律神経や情動に働きかける自然療法であり、睡眠や心理状態の改善とともに、業務効率を上げるためにも有効であることが研究で示されてきている。
アロマセラピーは、多くの人々にとって、安全かつ効果的な補完療法としての活用が広がっていくと考えられる。今後は、個々の症状や体質に応じた精油の選定、適切な使用方法、長期的な影響についてさらなる研究が求められるだろう。
このように仕事の生産性向上やストレス緩和に寄与するアロマを、まずはご自身の好みや目的に合わせて、普段の仕事に取り入れてみてはいかがだろうか。
[参考文献]
(1)Her J, Cho MK. Effect of aromatherapy on sleep quality of adults and elderly people: A systematic literature review and meta-analysis. Complement Ther Med. 2021;60:102739.
(2) Xu K, Wang S, Ji Q, Ni Y, Liu T. Effects of aromatherapy on sleep quality in older adults: A meta-analysis. Medicine (Baltimore). 2024;103(49):e40688.
(3)武田ひとみ. アロマセラピーの嗅覚刺激と触刺激が睡眠の質に及ぼす影響 アロマセラピー学雑誌 2016;17(1):24-30.
(4)澤井久子, 水上勝義. テレワーク就業者の心身に対する精油の香りの影響, 日本アロマセラピー学会誌, 2025, 26(1):31-41.
(5)Şimşek P, Çilingir D. The Efficacy of Lavender Aromatherapy in Reducing the Overcrowding-Related Anxiety in Health Care Workers. Adv Emerg Nurs J. 2021 Jul-Sep 01;43(3):225-236. doi: 10.1097/TME.0000000000000364.
(6)Lin Huang, Lluis Capdevila.Aromatherapy Improves Work Performance Through Balancing the Autonomic Nervous System.J Altern Complement Med. 2017 Mar;23(3):214-221. doi: 10.1089/acm.2016.0061. Epub 2016 Oct 20.
(7)Caballero-Gallardo K, Quintero-Rincón P, Olivero-Verbel J. Aromatherapy and Essential Oils: Holistic Strategies in Complementary and Alternative Medicine for Integral Wellbeing. Plants (Basel). 2025;14(3):400.
(8)上野節子ら. 女性頭痛患者に対するアロマセラピーの有効性に関する研究 日本頭痛学会誌 2022;49(1):215-222.
私たちがプロデュースする、挑戦する全ての人々の五感を刺激し「ひらめきの瞬間」を創出することを目的としたブランド “600 Essence(シックスハンドレッドエッセンス)” では、天然精油を使った100%ナチュラルなアロマオイルを販売しております。
純粋さと自然の恵みを凝縮した天然アロマの奥行きや効能を是非お楽しみください。