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Vol.02
ダークチョコレートを食べてイノベーションの閃きを期待する

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イノベーションという概念の生みの親であるシュンペーターや、「偉大な企業はすべてを正しく行うが故に失敗する」というイノベーションのジレンマで知られるクリステンセンは、今までにはない組み合わせを閃くことで、新しい価値が生まれることをイノベーションとしている。

 

新しい組み合わせの閃きの誘発には、様々な要因が関係していることは想像に難くない。例えば、多くの知識を持っていることや、偶然出会った人と会話する機会が多いことが閃きのきっかけになるかもしれない。

 

閃きの要素は無数に考えられるが、得た情報を適切に結びつけて処理し、画期的なアイデアとして出力することができる脳の知的機能は重要な要素と言えるだろう。そのような物事の理解、判断、論理を考えるような知的機能を認知機能と言う。

 

認知機能を向上させるためには、脳トレや運動に効果があると言われることもあるが、より手軽にチョコレートを食べることでも認知機能に好影響があることを示す研究が報告されている。本記事では、島根大学医学部環境生理学の住吉愛里氏らによる、ダークチョコレートを食べることでの認知機能向上と、神経成長因子の増加報告を紹介する[1]。

 

チョコレートの原料であるカカオにはフラボノイドとメチルキサンチンが含まれており、これらが認知機能を改善すると言われている。フラボノイドとはある特定の構造を持つ化合物の総称で、カカオにはエピカテキンとカテキンが含まれている。また、メチルキサンチンも特定の化合物の総称であり、カカオにはテオブロミンとカフェインが含まれている。

 

これらの成分が認知機能に良い影響を与えると知られているが、カカオに含まれる成分であるため、同じチョコレートであっても、ホワイトチョコレートには含まれていない。一方でダークチョコレートには高濃度のカカオの成分が入っている。そこで、ホワイトチョコレートよりもダークチョコレートの方が高い効果を示すと仮説を立てて研究が行われた。

 

この研究では被験者が2つのグループに分かれ、それぞれのグループがホワイトチョコレートとダークチョコレートを毎日30日間食べ続けることで行われた。認知機能評価として、本研究ではストループカラーワードテスト(SCWT)とデジタルキャンセルテスト(D-CAT)と呼ばれる下記二種類の試験が採用されている。

 

 

SCWTでは赤、黄、青、緑の4つの文字を、同じく赤、黄、青、緑の4色のインクでランダムに合計200文字を書き込んだテストシートを用いて、単語を読む単語テストと、色を読む色テストを行い、その正解数とエラー数の平均値を、認知機能を評価するための指標とする。

 

D-CATでは、0から9までのランダムな数字が600桁並んでいるシートを用いて、与えられた数字を1分間の中で、そのシートから可能な限り探し、見つけた数と見逃した数を、認知機能を評価するための指標としている。

 

今回の調査では、ダークチョコレートを食べた人たちは有意に認知機能が向上したのに対し、ホワイトチョコレートを食べた人たちには認知機能の変化は見られなかった。このことから、ダークチョコレートを食べること、つまりはフラボノイドやメチルキサンチンといったカカオに含まれる成分が認知機能を向上させる効果があると言うことができる。

 

今回の研究では面白いことに、ダークチョコレートを食べるのを辞めた3週間後においても、同様の試験を行ったところ、依然として高い認知機能が示されていたと報告されている。神経が外界の刺激により変化・成長する神経可塑性の機能により、チョコレートを食べることで、神経の機能が向上し、持続的に認知機能が向上した可能性があると言える。

 

さらに、ダークチョコレートを食べることで血漿中のNGFという神経成長因子が増加する結果も示されている。血液の中から脳に成分が入るためには、血液脳関門を通過する必要があるが、NGFはその関門を自由に通過する事はできない。そのため、チョコレートを食べたことで増えたNGFが認知機能を強化したという直接的な結果はないが、著者はその可能性もあると述べている。

 

今回の研究では20人の健康な若い被験者(男性14人と女性6人、20〜31歳)が選ばれている点も注目に値する。認知機能は老化によっても衰えるため、年配の被験者の認知機能の向上を目的として行われることが多い。しかし、今回の研究では若い被験者であっても、チョコレートが有効に働くことを示している。

 

一方で被験者の数が20人と少ないことにも注意する必要がある。論文でも、被験者が少ないことによるバイアス効果がある可能性には言及しており、より正確な結果として扱うためにはさらなるデータの蓄積が求められる。

 

しかしながら、チョコレートは過去の研究でも認知機能に良い影響を与える報告がされており、今回の研究成果が示すように若い人であってもチョコレートを食べることで認知機能が向上する可能性には期待しても良いのではないだろうか。

 

仕事や勉強、研究が上手くいかず思い悩んだときは、ダークチョコレートを食べて一休みすることで思いがけない繋がりが思いつくかもしれない。

 

[参考文献]

[1]Eri Sumiyoshi, Kentaro Matsuzaki, Naotoshi Sugimoto, Yoko Tanabe, Toshiko Hara, Masanori Katakura, Mayumi Miyamoto, Seiji Mishima and Osamu Shido, “Sub-Chronic Consumption of Dark Chocolate Enhances Cognitive Function and Releases Nerve Growth Factors: A Parallel-Group Randomized Trial”, Nutrients 2019, 11(11), 2800.

リンク:https://www.mdpi.com/2072-6643/11/11/2800/htm

 

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